意外に知られていない!遺伝性疾患と歯列不正の関係
歯並びは、顎や歯の大きさ、形など、いろいろな要因によって乱れるものですが、先天的な異常が原因となることもあります。例えば、歯の本数の異常やや形態異常などは、その背景に先天的な疾患が存在していることも珍しくはありません。ここではそんな先天的な疾患と歯の異常との関連について詳しく解説します。
歯に関する様々な異常が見られることがあります。まず歯の形についてですが、大きさが標準のサイズよりも小さい「矮小歯」や円錐形を呈した「円錐歯」といった形態異常が見られます。また、本来生えてくるべき永久歯が生えてこない「先天性欠如」や、生えてくる時期が遅れる「萌出遅延」という異常も観察されます。
生えてきた歯が極端に小さかったり、生えてくるべき歯が生えてこなかったりしたら、何が起こるでしょうか?歯というのは、スペースが生じると、それを埋めようとする傾向がありますので、今現在生えている歯が倒れこんだり、必要以上に飛び出してきたりします。また、形態の異常で噛み合わせが悪くなると、歯列全体もそれを補うように変化していきます。その結果、全体的な歯の乱れにつながっていくのです。
私たちの歯は、一般的に28本の永久歯が生えてきます。それに4本の親知らずを加えると、合計で32本となります。この本数が減少してしまう病気として、ダウン症候群や唇顎口蓋裂、無汗型外肺葉異形成症などが挙げられます。これらは遺伝的な要因が絡んだ疾患です。
生えてくる歯の本数が多くなる疾患としては、鎖骨頭蓋異形成症が挙げられます。歯の本数が少なくなる先天性疾患は比較的多いのですが、逆に本数が多くなる疾患はそれほど多くはありません。
遺伝的な疾患によって、歯の形態に異常が見られることがあります。歯のサイズが大きくなる巨大歯は、巨人症という病気が関係することがあります。逆に歯のサイズが小さくなる矮小歯は、ダウン症候群で見られることがあります。
ダウン症候群では、上の顎の発育が悪いため、「反対咬合」という噛み合わせの異常が生じることがあります。正常な噛み合わせであれば、上の前歯が少し前方に出ているのですが、反対咬合では下の前歯が前方に出て噛み合っています。この状態では、受け口となるため噛み合わせや見た目に悪影響が及びます。
このようにダウン症候群では、口腔内に様々な異常が生じます。そんなダウン症候群について、少し詳しく解説していきます。
ダウン症候群とは、21番目の染色体が1本多いことで発症する疾患で、心奇形や精神発達遅滞を伴います。日本国内におけるダウン症の出生頻度は、1000人に1人となっていますので、思ったよりも頻度が高いと感じられる方も少なくないのではないでしょうか。そんなダウン症候群は、両目が離れていたり、頭部の発育が悪いことで起こる「短頭」という独特の見た目を呈したりするようになります。
ダウン症候群には歯の形態異常や歯列不正などが多く見受けられます。それに加えて、全身的な問題もいくつか付随してくるため、歯科治療を行う上では様々な配慮が必要となってきます。
まず、ダウン症候群では細菌などの病原体に感染しやすい「易感染性」という傾向が強いため、歯科治療の前には予防投薬が必要なることがあります。また、心奇形を合併している場合は、医科の先生との連携も重要となってきます。その他、頸椎が形成不全であることが多く、歯科治療中の頸椎脱臼には注意が必要となります。
このように、ダウン症候群には様々な歯の異常が見られるだけでなく、それに伴う歯列不正も多く確認されます。それに加えて、虫歯や歯周病にかかるリスクも非常に高くなっていますので、ダウン症候群のお子さんには特別な口腔管理が必要となってきます。もちろん、全身疾患への配慮も欠かすことができません。
先天的に全身性であれ、部分的な局所性であれ、歯の形が標準と比べて、大きい小さい、数の多い少ない、左右の歯の本数や形態の違い、などいろいろな条件によって歯列の乱れは発生します。そのため、一言で歯列不正や叢生、出っ歯受け口と言っても個人差が大きく、バリエーションが多いため、患者様の個々に応じた治療方針や治療計画がとても重要になってくるのです。